起きて、トリス!ねえ、起きてったら」
 
んん・・・・・
 
いつかと同じように、無限の暗闇に明かりが灯るようにトリス大佐は目を覚ましました。
 
「姉さん!・・・・あれれ、ここは一体どこだっけ、、」
 
トリス大佐の寝ぼけたような返事に、くすりと微笑んでクリス大佐は言いました。
 
「何十年軍用アンドロイドやってても、トリスは生まれたときとぜんぜん変わらないね。」
 
「わたしだってちょっとは進歩してるもん!」
 
すねたように答えるトリスも、クリスにつられてにっこり微笑みます。
 
「姉さん、わたし、再起動中にいろんな事を思い出したよ。」
 
「うん。わたしもよ、、」
 
二人は、しばらく黙ったままお互いの瞳の奥を見つめていました。
 
 
 
 
 
「・・・・ねえ、トリス。」
 
長い沈黙を破り、クリスが口を開きます。
 
「なに?姉さん。」
 
「ほかの姉妹も含めて、わたしたちの機体ってほとんど同じだよね。」
 
「うん。そうだけど・・・・?」
 
何をいまさら、というようにトリスは訝しげにクリスを見つめ返します。
 
「じゃあ、わたしがクリスであなたがトリスだという事は、わたしたちのメモリー、
記憶の差によって決まるわけじゃない?」
 
「そうかもしれないね。クリス型は機体の差はほとんどないから。」
 
「ということは、無線通信で記憶をぜんぶ、地球にあるまっさらの機体に伝送すれば
この危機を脱せるんじゃないかな。」
 
え・・・・・!?
 
クリスの思いもよらぬアイデアに、トリスは目をまん丸にして驚きましたが、クリスの
提案に齟齬がないか、演算能力フル稼働で考えてみました。
 
「だめよ、姉さん。クローン人間がオリジナルとは別人なのと同じよ。記憶をコピーされ
た別のクリスとトリスが地上に生まれるだけで、わたしたちはこのままじゃない。」
 
トリスの答えを聞いて、クリスは可笑しそうに笑い出しました。
 
「わたしも、そう思ったのよ!つまり、ここにこうして物理的に存在するわたしたちが、
わたしたちってわけね。それって、生きて死ぬ生き物と一緒だわ!トリス、あなたは
わたしたちが生命体だというわけね。」
 
もう!ねえさんったら、、わたしをからかったのね?」
 
トリスは、ちょっとふくれっ面をしましたが、すぐに真顔に戻って言います。
 
「・・・・・だけど、このまま宇宙空間で燃料が尽きて、補給もなく永久に再起動されなか
ったら?それは死ぬって事かも、、死ぬことができるのは確かに生命体かもしれない・・・」
 
トリスがつぶやいた瞬間、二人の目の前にまばゆい光が現れました。
 
 
 
 
 
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