「そうぢゃ・・・胸の通信機に、何かメッセージが記録されておらんか?」
 
「機械の部分も草色になってるわ。まだ動くかなあ」
 
ぽぽりんが、やどらんの胸の通信機の<再生>ボタンを押すと、雑
音に混じってやどらんの懐かしい声がきこえてきました。
 
 
 
『・・・この記録を、救助の人が気づいてくれるといいんだけど。だれが
くるかな?ぽぽりんかも知れないね・・・
 
ぼくと、ランちゃんは今、宇宙植物に寄生されて、その一部になろうと
しているんだ。この録音をしてるぼくは、腰から下はもう植物化して
動かすことができない。じきに全身が植物になって、録音操作も、話す
こともできなくなるだろう。
 
ぼくの体内に根を張った植物は、筋肉や神経と融合しちゃったみたい
だけど、不思議と痛みも不快感も感じない。マヒさせられているの
かもしれないけど・・・  このまま死ぬのは、やっぱりちょっとこわい。
 
この火星基地を守って、宇宙生物と戦って死ぬのはそれほど悪い死に
方じゃないかもしれないな。こうしてじっと立ってると、そんな気もして
くるよ・・・
 
 
   ・・・・・・やどらんさん!目が見えなくなってきたの、ランちゃんこわいよう・・・・・・』
 
 
「ランちゃんの声もはいってるわ!」
 
「くうう・・・何という不憫な」
 
 
『ああ、ランちゃん!気持ちをしっかりもつんだ。きっと誰か来てくれる。
イヤポポリスの病院につれてってもらえば、ちゃんと見えるようになる
から、泣いちゃだめだよ。
 
ランちゃんはぼくより植物化が進んでて、アタマに妙なつぼみがはえ
始めている。人間に花が咲くなんて・・・悪い夢を見てるみたいだよ。
 
そうだ、口が動くうちに、隕石落下からのいきさつを話しておかなくちゃ。』
 
 
「おお、やどらん!何が起こったんぢゃ?!」
 
 
『だいたい13時間前、あの隕石は北東5キロの地点に落ちた。ただ直前に
計算した通り、南西から浅い角度で落ちたので、落下の衝撃は基地と
反対の方向に広がり、隕石落下自体からはそれほど大きな被害を受けな
かったんだ。
 
ただ、上空で分離したカケラの一つが、基地のドームを直撃して、測候所
の天蓋を突き抜け、動力室の天井に埋まり込んでしまった。
 
そのカケラが、宇宙植物のタネだったと気づいたのは、天井の被害状況を
ふたりで見に来て、オソロシイ勢いで伸びる根っこに捕らえられたときさ。
ぼく、ナイフしかなかったけど、それなりに必死でたたかったよ。』
 
 
 
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