意識をとりもどした諸尾博士は、暖かな丘の上で、誰かの膝枕で寝ているのに気がつきました。
  「ここは・・・?そうか、エンジェルの精神世界! ・・・私は負けたんだな」
 
「気がついたにゃん?」
 
膝枕の人物の顔は、博士にはよく見えませんでしたがみぃなさんの声でした。
  「みぃなクンか。私は君たちを、守りきれなかったよ・・・すまなかった」
 
身体を起こそうとする諸尾博士を、みぃなさんはそっと押しとどめます。
  「しばらく、じっとしていた方がいいのニャ。戦いの事は忘れて、心を休めるのにゃん」
 
言われるとおり、博士は空を仰いだまま一休みする事にしました。
「ここは、思ったより明るいところだな・・・おお!あれは・・・
 
 
雲の合間から、見覚えのある反重力都市が現れるのを見て、博士は驚きの声を上げました。
 
「いや〜ん司令たち、都市建設府の人々が協力して、イヤポポリスをソックリ再建しちゃった
のにゃ。あれこそ私たちの新しい首都、エンジェルポリスなのにゃん。・・そこにはヤッパリ
中央病院があって、みぃなは看護婦をしているのにゃ〜」
 
「・・・そうか。容器が変わっただけで、人は人、それほど変わりようがないというわけ
だな・・・・だが、未来はどうなるんだ?あらゆる物は現状維持が続くのか?」
 
「実は少しまえ中央病院で、この世界で最初の赤ちゃんが産まれたにゃん」
 
「まさか!この精神世界で、そんなことがありうるのか?」
 
「ペアになる2人が、心の一部分ずつを提供して融合させるのにゃん。うまく融合すれば
新しい精神生命体として、この世界で安定するのにゃ。ペアになる2人は、同種の男女
に限らず心でありさえすれば元が植物でも動物でも区別はないけど、どの場合でも
融合する確率はとても低いにゃん」
 
諸尾博士は、エンジェルポリスを眩しそうに見上げながらつぶやきます。
「そうなのか。人類は、というより地球の生物は、滅びたわけではないんだな・・・
『私は思考するがゆえに私の存在は確認される』・・・昔の人はよくぞ言ったものだ」
 
丘の上を、雲が流れていきます。
 
 
◇◇◇◇
 
 
「博士、みぃなとペアになってくれないかにゃ?」
 
博士は少しビックリして身体を起こすと、みぃなさんを見つめました。
「突然何を言い出すんだ、みぃなクン!  ・・・おおお?
 
「ネコ目じゃにゃくてビックリしてるにゃ?ここでは自由にすがたを変える事ができるのにゃん。
博士はみぃなのことがキライかにゃん?」
 
「いや・・だが私は年寄りだし、ほかにフサワシイ相手はいくらでもいるだろう?」
 
10億年の寿命を得たいま、みぃなも博士も幼子同然にゃ。若くなろうと思えば、いくらでも
若い姿になれるにゃん。・・・それとも、博士は私をネコだと思ってるにゃん?」
 
「いやいや、君は人間だ!ここでは、そんな区別はないのかもしれないが・・・う〜む、
負けたよ、みぃなクン。」
 
意を決するように、空のかなたを見つめて博士がしばらく念じると、諸尾博士の姿は見る見る
若返っていきました。
 
 
「いっしょに、また中央病院で働くにゃん!」
 
「いいだろう。みぃなクンとイッショに、ワタシもこの世界で10億年を生きてみよう。」
 
<いいニャ〜、いいニャ〜、みぃなだけ博士とナカヨシでいいにゃ>
 
姉妹たちがネコのふりして見ていたのにゃ〜。冷やかすんじゃないにゃん」
 
 
◇◇◇◇
 
 
「そういえば、最後に再生操作をした、電送機はどうなったんだろう?」
博士は、急に思い出してみぃなさんにたずねました。
 
「あの装置は宇宙艦隊との専用線で、ぽぽりん氏と潤子ちゃんが火星から戻ったときの
ログしかなかったのにゃ。2人は元々別世界の住人だから、ここに定住した2人に替って旅
してもらう事になったにゃん」
 
 
ログからデジタル再生されたぽぽりんと潤子ちゃんは、火星基地から戻った瞬間の2人そのもの
でした。当然自分たちがコピーと気づくはずもなく、命令されるままブラウサ号に乗り込みました。
 
イヤポポリスを遠ざかりながら、ぽぽりんがぼやいています。
 
「火星から戻ったとたん退去命令を出すとは、いや〜ん司令は何を考えちゃるんぢゃ?」
 
「わかんないけど、やどらんサンたち早く回復するといいね。」
 
ブラウサ号は急速にスピードを上げると、四次元空間に突入していきます。
 
 
何億年かあとエンジェルと火星のはなぴょん本体は、大勢の心を乗せたまま太陽系を離れ
宇宙の彼方へ旅立つのですが、それはまたいつか別の物語としてお話しましょう♪
 
 
 
 
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